幹細胞・再生医療研究ガイド

疾患モデル研究
その3:iPS細胞を利用した疾患モデリングの課題と解決策①
― iPS細胞の安定維持 ―

フィーダー細胞を用いた従来のヒトiPS細胞培養の問題点

先のページでご紹介したように、ヒトiPS細胞(hiPSC)は適切な条件下で様々な細胞に分化する能力を維持したまま、無限に増殖する能力(自己複製能)を有しています。一方で、これらの能力を安定して維持するためには、適切な培養方法の選択が極めて重要です。

従来のhiPSC培養法(オンフィーダー培養)では、マウス線維芽細胞などがフィーダー細胞として用いられてきました。フィーダー細胞はhiPSCが培養器材に接着する足場として働くほか、細胞の増殖や未分化性の維持にも重要な役割を果たしていますが、その一方で課題も指摘されています。以下、その詳細と解決法を解説します。

<課題1>手技の難易度

オンフィーダー培養法をはじめとする多くのhiPSC従来培養法では、細胞はコロニー(細胞塊)を形成しながら増殖します(図1、2)。こうしたhiPSCがコロニーを形成し増殖する培養法においては、hiPSCの未分化性や増殖能の維持のため、継代時や凍結保存時に細胞塊を適度なサイズにコントロールして再播種や凍結保存に用いる必要があります。そのため、安定した品質のhiPSCの培養維持には、熟練した技術の習得が非常に重要です。

<課題2>フィーダー細胞の確保と培養前準備の必要性

hiPSCのオンフィーダー培養では、足場としての性能を確認済みのフィーダー細胞(マイトマイシン処理済みマウス胎児由来線維芽細胞など)を別途準備し、予め培養器材に播種する作業が必要です。これらの工程が、フィーダー細胞を必要としない一般の細胞培養と比較してヒトiPS / ES細胞培養をより複雑な作業としていることは勿論のこと、培養のスケールアップや自動化を行う際の障害になることも危惧されます。

<課題3>培養環境のRobustness(頑健性)の不足

課題1、2に挙げたように、熟練した技術習得が必要となり、一定の品質確保が必ずしも容易とはいえないフィーダー細胞を必要とするオンフィーダー培養法では、これらによりに生じる「作業者間差」や「実験間差」が与えるhiPSCの品質への影響が大きくなる傾向があります。そのため、分化誘導などの培養以降の実験で、再現性が低下するリスクが危惧されます。

<課題4>異種動物由来成分の使用

より安全性の担保が重要となる再生医療分野では、異種動物由来のフィーダー細胞に起因する成分の持込みやウイルス感染の可能性が否定できず、これを必要としない培養法が好ましいとされています。
hiPSC従来培養法(オンフィーダー培養)の問題点
図1.hiPSC従来培養法(オンフィーダー培養)の問題点
オンフィーダー培養したhiPSCの細胞形態
図2.オンフィーダー培養したhiPSCの細胞形態

<解決法>フィーダーフリー培養法

このように、オンフィーダー培養に代表されるヒトiPS細胞の従来培養法では、「手技の難易度」、「操作の煩雑性」などに起因するヒトiPS細胞の品質のバラツキが懸念されます。このような問題点の改善には、「フィーダーフリー」、「シングルセル継代」などに対応した培養システムの利用が有効です。そこで当社からご提案するのが、「Cellartis DEF-CS Culture System(DEF-CS培養システム)」(図3 左)です。本システムではフィーダー細胞の代わりにプレートコーティング剤を用いることで、hiPSCの能力を安定して維持します。

hiPSC従来培養法(オンフィーダー培養)の問題点
図3.DEF-CS培養システム(左)と DEF-CS培養システムを用いて培養したhiPSCの細胞形態(右)
試験管を持つ研究者の画像

★★DEF-CS培養システムの特長★★

DEF-CS培養システムでは、次に挙げる2つの特長により、hiPSCをあたかも一般的な株化接着細胞と同様に培養維持することができます。これにより、従来培養法に比べてより簡便なhiPSCの培養維持が可能となるほか、従来培養法で危惧されていた実験者間や実験間の培養結果(hiPSCの品質)のバラツキが大幅に改善できます。

<特長1>フィーダーフリー培養

DEF-CS培養システムによるヒトiPS細胞の培養には、フィーダー細胞は不要です。システムにはタンパク質成分からなるコーティング剤(COAT-1)が含まれており、PBSで希釈したCOAT-1で37℃にて20分以上(または室温で3時間)培養プレートをコーティングするだけでヒトiPS細胞の足場の準備は完了します。そのため、オンフィーダー培養で必要な性能が担保されたフィーダー細胞の確保や、hiPSCの継代や解凍時のフィーダー細胞播種などは不要です。

<特長2>2D培養によるシングルセル継代

DEF-CS培養システムを用いて培養したhiPSCはオンフィーダー培養に特徴的なコロニー(細胞塊)を形成せず、平面的で均一な細胞形態を示します(図3 右)。そのため、実験者のスキルに大きく依存するhiPSCコロニー(細胞塊)の適度なサイズへの調整は不要であり、細胞剥離剤でシングルセルにまで分散した状態(図4)で継代や凍結保存が可能です。
DEF-CS培養システムで培養したhiPSCの剥離剤処理後(左)と細胞数計測時の顕微鏡像(右)
図4.DEF-CS培養システムで培養したhiPSCの剥離剤処理後(左)と細胞数計測時の顕微鏡像(右)

★★DEF-CS培養システムによる優れたhiPSC品質の維持★★

DEF-CS培養システムでは、hiPSCを簡便に扱えるだけではなく、「増殖能」、「未分化性」、「多分化能」をはじめとするヒトiPS細胞に求められる特長(品質)を安定に維持できることを確認しています(図5)。 横にスクロールできます
DEF-CS培養システムによる優れたhiPSC品質の維持


>>次のページへ