幹細胞・再生医療研究ガイド

疾患モデル研究
その1:iPS細胞とその可能性
―iPS細胞を利用した疾患モデリングの意義―

京都大学の山中教授が2006年に世界で初めてマウス由来のiPS細胞の樹立を報告して以来、幹細胞研究は著しい発展を遂げてきました。世界初のiPS細胞の臨床研究が網膜で実施され、最近では心臓病やパーキンソン病でも研究が進むなど、いよいよ実際の治療を見据えた新たなステージへと移行しています。
本ページでは、iPS細胞を用いた研究分野の中でも注目の疾患モデリングに焦点を当て、iPS細胞を利用した“疾患モデリングの意義”、“疾患モデリングのアプローチ”、“疾患モデリングの課題とその解決策”の3つのテーマについて、関連技術情報と弊社お勧めの製品・サービスを交えながらご紹介します。

iPS細胞とは?

幹細胞(Stem Cell)とは、自分と同じ性質を持つ細胞に複製する能力(自己複製能)と、異なる性質を持つ細胞へと分化する能力(分化能)を持つ細胞です。中でも、体細胞から初期化と呼ばれる工程を経て人工的に作製したiPS細胞(induced Pluripotent Stem Cell:人工多能性幹細胞)は、受精卵由来のES細胞(Embryonic Stem Cell:胚性幹細胞)と同様に、様々な細胞へ分化できる能力(多能性)を有する幹細胞(多能性幹細胞)であり、この特徴を生かした再生医療や創薬への応用が急速に進められています。

iPS細胞の可能性

iPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞より、分化誘導の工程を経て、3種類の胚葉(三胚葉)に由来する、様々な組織細胞を作製することが可能となります(図1フロー)。また、樹立の際に受精卵が必要となるES細胞とは異なり、iPS細胞は、皮膚や血液などから取得した体細胞より、リプログラミングという工程を経て比較的容易に樹立することができます。これらの点を背景として、現在、iPS細胞技術の再生医療分野への応用(例:iPS細胞由来の網膜色素上皮シートを用いた加齢黄斑変性の治療)や、医薬品の探索や有効性の評価(例:iPS細胞由来の膵β細胞による糖尿病治療薬の探索)などの創薬分野への利用に大きな注目が集まっています。
幹細胞の樹立から分化細胞応用までの実験フロー
図1.幹細胞の樹立から分化細胞応用までの実験フロー

iPS細胞を用いた疾患モデリング

疾患メカニズムの解析や医薬品の探索を効果的に行う上で、特定の疾患状態を模倣したin vitroあるいはin vivoアッセイ系を構築すること(疾患モデリング)は重要であるとされています。iPS細胞技術を利用した疾患モデリングでは、疾患特異的な遺伝的背景を有するiPS細胞を樹立し、分化細胞を誘導することで疾患モデル細胞の取得が可能となることから、従来技術では構築が困難であった希少疾患を含む様々な疾患モデルの構築が可能になることが期待されています。 横にスクロールできます
疾患モデルiPS細胞分化誘導
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