効率的なリアルタイムPCRを行うためには、最適なプライマーを設計することがもっとも重要であり、増幅効率が良く、非特異的増幅が起こらないプライマーが設計できれば、リアルタイムPCRはほぼ確実に成功します。ここでは、プライマーを設計する際に考慮すべきパラメータについて個々に解説します。
なお、Perfect Real Timeサポートシステムは、ここで解説される条件を考慮して設計されたリアルタイムRT-PCR用プライマーをカスタム合成するサービスです。ヒト、マウス、ラットの多くのRefSeqについてプライマーセットが用意されており、目的の遺伝子を検索して購入するだけの便利なシステムです。
■プライマー設計パラメータについて
リアルタイムPCR用プライマーを設計する際に考慮すべき基本事項は、下記の3つの点です。
- 標的のDNA配列に安定してアニーリングできる(Tm値が適切な範囲である)
- PCR反応効率が良い(プライマー内部やプライマー間に相補的な配列がない)
- 特異性が高い(鋳型DNA上にミスプライミングする部位がない)
- 増幅サイズ
- リアルタイムPCRで100%に近い増幅効率を得るためには、増幅サイズが80~150 bpとなるように設計することが望ましいと考えられます。
リアルタイムPCRでは、高速でPCRを行うため、増幅サイズが大きすぎるとPCR増幅できない場合もありますので、増幅サイズが300 bpを超えるようなプライマーペアは避けるようにします。
- プライマーのサイズ
- プライマーの長さを17~25塩基にすれば、通常、目的の遺伝子に特異的な配列になります。
プライマーのサイズが大きいほどアニーリング効率は低下するので、長すぎるプライマーは避けるようにします。
また、短いプライマーでは、十分な特異性が得られないことがあるので注意が必要です。
- GC含量
- プライマー全体のGC含量は40~60%とし、配列中で塩基の偏りがないように注意します。
部分的にGCあるいはATリッチなものも避けます。
特に、プライマーの3′端配列には注意が必要です。
ATリッチなものは、プライマーと鋳型DNAが安定して結合できず、逆に、GCリッチなものは、鋳型DNAに非特異的にアニールし、特異的増幅を阻害します。
また、T/Cが連続する配列(polypyrimidine)やA/Gが連続する配列(polypurine)を含むプライマーも避けるようにします。
- Tm値
- まず、PCRに使用する2つのプライマー(Forward, Reverse)について、それらのTm値の差が大きいものはできるだけ避けます。 2つのプライマーのTmが異なると、低い温度では、Tmの高いプライマーは非特異的にミスプライミングして特異的増幅を阻害し、逆に、高い温度では、Tmの低いプライマーはプライミングできません。このような場合には、最適なアニーリング温度の設定が困難となります。
プライマーのTm値を計算するには、nearest neighbor法を用いるのがよいでしょう。
- 特異性
- ホモロジー検索でプライマーの特異性を確認し、鋳型DNA上で、目的遺伝子特異的な配列にプライマーを設計します。
特に3′末端部分が目的以外の遺伝子と相同性がある場合には、目的以外の遺伝子も増幅する可能性が高くなります。
ホモロジー検索法として一般的にBLASTが使用されますが、BLASTではプライマーのような短い配列をクエリーとした場合、相同性があっても検出されない場合があるので注意を要します。
- プライマー配列の相補性(Complementary)
- プライマー内部に相補する配列があるものは避けます。
このような配列があると、プライマー自身で二次構造を形成し、鋳型DNAへのアニーリングが妨げられます。
また、プライマー間で相補的配列があるものも避けます。
部分的に相補する配列があると、プライマー同士でハイブリッドを形成しPCR反応効率が低下します。
3′末端配列同士が相補するような配列では、プライマーダイマーが形成されやすくなり、やはり特異的増幅の効率低下を招きます。
- 3′末端配列
- プライマーの3′末端配列は、ミスプライミングを避けるために重要です。
3′末端の塩基をGまたはCにすると、より確実に鋳型にプライミングできます。
ただし、前述の通り、3′末端がGCリッチすぎると、非特異的にプライミングする危険性が高くなるので、GCの連続するような配列は避けるようにします。
3′末端塩基がTのプライマーも避けます。3′末端塩基がTの場合、ミスマッチでもプライミングしてしまう確率が高くなります。
- ゲノム構造の考慮
- 可能な限りゲノムDNA由来の増幅が起こらないようなプライマーを設計するリアルタイムPCRではmRNAの検出を行いますが、ゲノムDNAが混入しているRNAサンプルでは、ゲノムDNAもPCRの鋳型となりえます。このようなことを避けるために、RNAサンプルを前もってDNaseI処理する方法もありますが、あらかじめゲノムDNA由来の増幅が起こらないようなプライマーを設計することもできます。
このようなプライマーを設計するには、目的遺伝子のゲノム構造を調べ、ゲノム構造が分かったら、サイズの大きなイントロンを選んで、その前後のエキソンにForward, Reverseのプライマーをそれぞれ設計します。小さなサイズのイントロンが存在する場合にも、ゲノムDNA由来の増幅産物とcDNA由来の増幅産物とではサイズが異なるので、増幅産物の融解曲線分析により区別することができます。