タカラバイオ株式会社は、中期経営計画(本年4月から平成29年3月末まで)を策定しました。
本中期経営計画では、最終年度にあたる平成28年度のタカラバイオグループ連結売上高280億円の達成及び、臨床開発プロジェクトの進展による研究開発費の増加を吸収して営業利益22.5億円へ利益拡大を目指します。初年度である本年度から最終年度にあたる平成28年度まで、売上高、営業利益、経常利益及び当期純利益において各年度とも過去最高業績の更新を目指します。

当社は、「遺伝子治療などの革新的なバイオ技術の開発を通じて、人々の健康に貢献する」ことを企業理念として、当社の基幹技術であるバイオテクノロジーを活用し、安定収益基盤である「バイオ産業支援事業」、第2の収益事業化を目指す「医食品バイオ事業」、成長基盤である「遺伝子医療事業」の3つの事業を推進しています。
「バイオ産業支援事業」では、本年10月に本格稼働予定の遺伝子・細胞プロセッシングセンターを中核とした、バイオ医薬品の開発支援サービス分野に注力し、CDMO(Contract Development and Manufacturing Organization)事業の拡大を図ります。「医食品バイオ事業」では、瑞穂農林株式会社におけるハタケシメジの生産をより高付加価値なホンシメジにシフトしており、安定した増産体制の構築と販売ルートの拡充を進め、平成27年度の営業黒字化を目指します。「遺伝子医療事業」では、がん治療薬HF10の米国における第Ⅱ相臨床試験及び、本年度中に開始予定の日本における第Ⅰ相臨床試験をはじめ、各臨床開発プロジェクトを着実に推進して参ります。

 

1. 業績目標

連結業績目標                                   (単位:百万円)

  本年度 平成27年度 平成28年度
売上高 25,200 26,500 28,000
営業利益 2,000 2,100 2,250
経常利益 2,250 2,300 2,400
当期純利益 1,480 1,500 1,550
研究開発費 3,646 4,084 4,635



セグメント別売上高                                (単位:百万円)

  本年度 平成27年度 平成28年度
研究用試薬
理化学機器
受託
その他
16,693
2,678
3,017
363
17,594
2,681
3,229
358
18,708
2,681
3,459
352
バイオ産業支援 計 22,752 23,863 25,203
遺伝子医療 - - -
健康食品
キノコ
730
1,717
789
1,847
890
1,907
医食品バイオ 計 2,447 2,636 2,797
売上高 合計 25,200 26,500 28,000

 

(注)昨年度まで遺伝子医療セグメントに計上しておりました細胞培養用培地・バッグ等の売上高は、
本年度よりバイオ産業支援セグメントに計上いたしております。



セグメント別営業利益                              (単位:百万円)

  本年度 平成27年度 平成28年度
バイオ産業支援 5,140 5,475 6,010
遺伝子医療 ▲1,434 ▲1,724 ▲2,124
医食品バイオ ▲168 10 100
共通 ▲1,536 ▲1,661 ▲1,736
営業利益 合計 2,000 2,100 2,250



セグメント別研究開発費                             (単位:百万円)

  本年度 平成27年度 平成28年度
バイオ産業支援 1,919 2,023 2,129
遺伝子医療 1,426 1,715 2,115
医食品バイオ 185 190 196
共通 114 154 194
研究開発費 合計 3,646 4,084 4,635

 

2. 事業別施策

当社は、「バイオ産業支援事業」、「遺伝子医療事業」、「医食品バイオ事業」の3つの事業を展開しておりますが、技術力の有効利用および収益力の向上をはかるため、本年4月1日付で組織改正を行いました。再生医療等安全性確保法の施行により細胞加工の外部委託が可能となることを受け、細胞加工業を含めたバイオ医薬品の開発支援サービスを展開するCDMO事業を、主力事業である研究用試薬などを製造販売する「遺伝子工学研究事業部門」に統合し、新たに「バイオ産業支援事業部門」と改称しました。また、遺伝子治療プロジェクトの推進強化を目的として、「遺伝子医療事業部門」にプロジェクト推進部を新設しました。この新組織において、以下に掲げる事業戦略を実行し、収益拡大を目指します。

(1) バイオ産業支援事業
大学や企業などの世界のバイオ研究者向けに研究用試薬・理化学機器の販売や研究受託サービスを行う当事業は、当社の収益基盤であるコアビジネスとして位置づけています。また、iPS細胞等の幹細胞を用いた基礎研究や再生・細胞医療等の研究分野に向けた新製品開発を加速していきます。
また、これまで遺伝子治療や細胞医療の臨床開発で培ってきた技術・ノウハウを活用し、バイオ医薬品のGMP(Good Manufacturing Practice)製造受託や、研究開発のパートナーとして受託業務を行うCDMO事業の拡大を目指します。CDMO事業の具体例としては、遺伝子治療用ベクターや再生・細胞医療に利用される細胞の、製造プロセス開発や品質管理試験法の開発、試験製造、バイオアッセイ、GMPに準拠した受託製造があげられます。当社は、GMP基準に準拠した製造施設である遺伝子・細胞プロセッシングセンター(滋賀県草津市に建設中)を、自社臨床開発プロジェクト用のベクター製造に加え、CDMO事業の中核施設としても活用する計画です。また、現在、滋賀県大津市、草津市及び三重県四日市市に分散している研究・受託施設を、平成27年7月を目処に滋賀県草津市に集約・統合する予定であり、より効率的な研究開発及び受託解析サービスの品質向上を目指します。
当事業では、基礎研究支援から創薬・産業支援へとその領域を広げながら、次のような事業展開を積極的に進めます。

 

  • 細胞加工受託業の開始、GMPベクター製造受託など、新設する遺伝子・細胞プロセッシングセンターを中心としたCDMO事業の拡大
  • iPS細胞等を利用した再生・細胞医療支援分野における新製品開発・売上拡大
  • 次世代シーケンシング関連技術開発及びヒト全ゲノムシーケンス解析、miRNA解析を中心とした受託サービスの売上拡大
  • 日本、米国、中国の3研究開発拠点の特性を生かした開発テーマの分担による製品開発力の強化
  • キーアカウント営業への注力、E-marketingの拡充、新ブランド戦略等による、営業・販売体制の強化
  • 日本、中国、インドの各製造拠点の連携強化による効率的な製造体制の構築

 

(2) 遺伝子医療事業
臨床試験(治験)を実施中の腫瘍溶解性ウイルスHF10、MAGE-A4・TCR遺伝子治療、MazF遺伝子治療の早期商業化を目指し、薬事法の改正により新たに導入される再生医療等製品への早期承認制度の利用検討を進めつつ、臨床開発を積極的に推進します。
米国で臨床開発を進めているがん治療薬HF10は、悪性黒色腫を対象とした米国での第Ⅱ相臨床試験の臨床試験実施申請資料(IND; Investigational New Drug)を本年4月30日付(米国時間)で米国食品医薬品局(FDA; Food and Drug Administration)に提出しており、今後、臨床試験実施施設の審査を経て、被験者登録を開始いたします。また、日本においても本年度の治験開始に向けて準備を進めています。
日韓共同治験を目指して準備を進めていたHSV-TK遺伝子治療は、以下の開発環境の変化を考慮して一時的にプロジェクトを凍結いたします。

 

  • 腫瘍溶解性ウイルスHF10やTCR遺伝子治療などの優先順位の高い臨床開発プロジェクトが新たな段階に進んだこと
  • 日本におけるHLA不適合移植の状況が変化しつつあり、これに合わせた開発計画の再検討が必要になったこと
  • ライセンス元であるイタリアMolMed社が欧州で条件付き製造販売承認を申請(本年3月発表)しており、その審査状況を見極め、日本における開発戦略を検討する方が効率的であること

 

【遺伝子治療の各プロジェクトの臨床開発計画】

 

  • 固形がんを対象とした腫瘍溶解性ウイルスHF10の臨床開発の推進

    (目標:本年度上期の米国における第Ⅱ相臨床試験開始、本年度の日本における治験開始、
    平成30年度の米国における商業化)

     

  • 食道がんを対象としたMAGE-A4抗原特異的TCR遺伝子治療の臨床開発の推進
    (目標: 平成33年度の商業化)
  • HIV感染症を対象としたMazF遺伝子治療法の米国での臨床開発の推進

    (目標:平成34年度の商業化)
  • 固形がんを対象としたNY-ESO-1抗原特異的TCR遺伝子治療の臨床開発の推進
    (目標:平成26年度の治験開始)

 

(3) 医食品バイオ事業
機能性食品素材の開発を中心とした健康食品事業やキノコに関する事業を展開しています。キノコ事業では、瑞穂農林株式会社におけるハタケシメジの生産をより高付加価値なホンシメジにシフトしており、安定した増産体制の構築と販売ルートの拡充を進めます。健康食品事業では、宝ヘルスケア株式会社との連携による健康食品の売上拡大を目指しており、医食品バイオ事業全体として平成27年度の営業黒字化を目指します。

 

  • ガゴメ昆布「フコイダン」、ボタンボウフウ「イソサミジン」、明日葉「カルコン」、寒天「アガロオリゴ糖」、ヤムイモ「ヤムスゲニン®」、きのこ「テルペン」などの機能性食品素材のエビデンスデータ取得蓄積を目指した自社研究開発と医学系研究機関との共同研究の推進
  • 取得したエビデンスデータのインターネットサイトでの公開や情報冊子配布による啓発活動
  • 安全・安心な製品を提供するための、品質管理・品質保証体制の強化
  • 製造方法や原材料調達方法などの見直しによる製造コスト削減
  • 瑞穂農林株式会社でのホンシメジ増産による売上拡大
  • ホンシメジ増産に対応する販売ルートの拡充
  • キノコ栽培技術・ノウハウのライセンス事業の拡大

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970

<参考資料>

 

【語句説明】

 

GMP

GMPとは、Good Manufacturing Practiceの略で、医薬品を製造する際に遵守すべき「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理規則」を指します。GMPは、安全で品質が担保された医薬品を供給するため、医薬品の製造時の管理、遵守事項を各国の規制当局が定めたものです。

 

iPS細胞

体細胞に、数種類の遺伝子を導入することなどによって分化多能性が誘導された細胞のことです。2006年に京都大学山中伸弥教授らのグループにより、この現象が発見され人工多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem Cells:iPS細胞)と名付けられました。iPS細胞は、ES(Embryonic Stem)細胞とほぼ同等の分化多能性を示すことから、薬剤開発、種々の疾患の病態解明や再生医療への応用が期待されています。

 

再生医療

再生医療とは、ヒトの細胞・組織を取得・加工して移植することで、損傷を受けた生体機能を回復させる医療のことです。政府は再生医療の早期普及及び産業化を目指しており、再生医療を推進するための基本法ともいえる再生医療推進法(再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律)が、平成25年4月26日に、また、薬事法等の一部を改正する法律および再生医療等の安全性確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)が、平成25年11月20日に成立しました。

 

再生医療等製品

薬事法の改正により医薬品や医療機器とは別に新たに定義されたカテゴリーで、従来の再生医療で想定される移植用に加工・調製されたヒトの細胞・組織等に加えて、遺伝子治療製品や、がん免疫療法に用いられる加工された細胞なども含まれます。通常の低分子化合物を用いる医薬品とは異なり、個体差のあるヒト細胞を用いることにより品質が不均一となる再生医療等製品については、有効性が推定され、安全性が確認されていれば、条件・期限付きで早期に承認が得られる仕組みが導入されました。がん治療を目的とした遺伝子改変リンパ球は「再生医療等製品」に位置づけられ、早期承認制度の対象となる可能性があります。

 

次世代シーケンシング

次世代シーケンサー(高速シーケンサー)と呼ばれる、数百万から数億個の塩基配列データを並列に大量取得することができる装置を用いた塩基配列解析です。従来法であるサンガー法を用いない塩基配列解析用装置で、新技術により解析能力が数百倍と飛躍的に向上しました。第3、第4世代に分類される新たな原理を用いた塩基配列解析装置も発売されています。装置の性能の向上により、がん研究やiPS細胞等を用いた創薬研究においても、遺伝子の塩基配列解析ニーズが高まっています。

 

ゲノムシーケンス解析

ゲノム(genome)とは、生物のもつ遺伝子(遺伝情報)の全体を示し、その実体は生物の細胞内にあるDNA分子です。ゲノムシーケンスとはゲノムを構成するDNA分子の塩基配列を決めることであり、これによって遺伝子や遺伝子の発現を制御する情報など様々な遺伝情報を得ることが出来ます。

 

miRNA

マイクロRNA(microRNA)の略称で、18から26塩基程度の低分子1本鎖RNAです。タンパク質へは翻訳されず、他の遺伝子の発現を調節することが知られ、基本的な代謝から個体発生や細胞分化までのさまざまな生命現象に関与すると考えられています。

 

HF10

当社は、平成22年11月にHF10事業を株式会社エムズサイエンスより取得しました。HF10は単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の弱毒化株で、がん局所に注入することによって顕著な抗腫瘍作用を示します。このようなウイルスは腫瘍溶解性ウイルス(oncolytic virus)と呼ばれています。

 

TCR遺伝子治療

TCR遺伝子治療は、がん患者の血液から採取したリンパ球に、がん細胞を特異的に認識するTCR遺伝子を体外で導入し、培養により増殖後に患者に戻す治療法です。TCR遺伝子が導入されたリンパ球が、患者の体内においてがん細胞を特異的に認識して攻撃し、消滅させることが期待されます。当社は、MAGE-A4、NY-ESO-1、WT1等のがん抗原特異的TCR遺伝子治療の臨床開発を推進しています。

 

T細胞

標的細胞の傷害と抗体産生の調節の役割を担う重要な細胞で、Tリンパ球とも呼ばれます。免疫系の中心的な役割を担っており、末梢リンパ組織の胸腺依存領域に主に分布します。

 

TCR(T細胞受容体)

T細胞に発現される糖タンパク質で、T細胞が抗原を認識する際の受容体です。腫瘍抗原を含む抗原は細胞内で分解されてペプチドとなり、HLA分子上に提示されます。TCRは、特定の型のHLAにより提示された特定の抗原を認識し、T細胞を活性化します。

 

ヒト白血球抗原(HLA)

ヒト白血球抗原(HLA; Human Leukocyte Antigen)は、免疫系が自己と非自己を区別して認識する際に最も重要な役割を担う分子です。T細胞によるがん細胞の認識は、T細胞表面にあるTCRがHLAとがん抗原ペプチドの複合体に結合することで行われ、それぞれのTCRには結合できるHLAの型が決まっています。

 

MAGE-A4

MAGE-A4抗原は、がん抗原の一つで、食道がんや頭頸部がん、卵巣癌、悪性黒色腫等での発現が確認されています。

 

NY-ESO-1

NY-ESO-1抗原は、がん抗原の一つで、滑膜細胞肉腫、悪性黒色腫、卵巣がん、食道がん等での発現が確認されています。

 

MazF遺伝子治療

MazF遺伝子治療は、大腸菌由来のRNA分解酵素であるMazFを利用したエイズ(HIV感染症)に対する遺伝子治療法です。MazF遺伝子治療は、HIV感染によってMazFの発現が誘導されるよう設計されており、発現したMazFによりHIVの複製を阻止し、患者の免疫機能を維持させようとする治療法です。当社は、米国のペンシルベニア大学、ドレクセル大学と共同で、MazF遺伝子を用いたエイズ遺伝子治療の第Ⅰ相臨床試験を米国において実施中です。

 

HSV-TK遺伝子治療

造血器悪性腫瘍の治療法の一つ。HLA不適合同種造血幹細胞移植のドナーから採取したリンパ球に、レトロウイルスベクターを用いてHSV-TK遺伝子を体外で導入することにより、ドナーリンパ球輸注(DLI)療法において重大な問題となっている移植片対宿主病(GVHD)と呼ばれる副作用を沈静化させることができます。GVHDが発症した際には、ガンシクロビルという薬剤を投与し、導入されたHSV-TK遺伝子の働きによってドナー由来のリンパ球のみを消滅させ、GVHDの沈静化を図ります。当社は、イタリアのMolMed社よりライセンスを受けています。

 

ガゴメ昆布「フコイダン」

昆布、ワカメ、モズクなど、褐藻類の海藻のぬめり成分で、硫酸化されたフコースを構成成分とする多糖の総称です。ガゴメ昆布には乾燥重量の約5%と豊富にフコイダンが含まれています。当社は北海道の函館近海に生育するガゴメ昆布に注目し、1995年にフコイダンの化学構造を世界で初めて明らかにしました。また様々な生理活性の研究も進めています。

 

ボタンボウフウ「イソサミジン」

ボタンボウフウ(牡丹防風)は日本では本州以西から沖縄までの海岸沿いに生育するセリ科の植物で、学名をPeucedanum japonicumといいます。沖縄では別名、長命草やサクナと呼ばれています。屋久島産ボタンボウフウには、有用成分であるイソサミジンが含まれており、当社では様々な機能性の研究を進めております。

 

寒天「アガロオリゴ糖」

寒天の主成分であるアガロースを酸分解することによって得られる2糖~8糖のオリゴ糖です。当社のこれまでの研究において、抗関節炎作用、大腸炎予防作用、皮膚炎抑制作用、シワ改善作用、解毒作用、発がん予防作用などの機能性が明らかになっています。

 

明日葉「カルコン」

明日葉に特徴的に含まれるポリフェノール系成分です。明日葉にはキサントアンゲロールと4-ハイドロキシデリシンの2種類のカルコンが豊富に含まれており、これらを総称して明日葉カルコンと呼びます。

 

ヤムイモ「ヤムスゲニン®」

ジオスゲニンは、ヤマノイモ科やユリ科の植物に含まれるステロイドで、様々な生理活性を有するといわれています。当社では、「ヤムイモ由来のジオスゲニン配糖体」を「ヤムスゲニン®」と命名し、様々な機能性の研究を進めております。

 

きのこ「テルペン」

白楡木茸(しろたもぎたけ)属キノコのある種のブナシメジに含まれる苦味成分の一つであり、一般の食用キノコにはほとんど含まれません。テルペンとは、植物に広く存在するイソプレン構造を基本とする物質の総称です。