JAK/STAT CAR

概要

 CAR(キメラ抗原受容体)遺伝子治療は、TCR遺伝子治療と同じ遺伝子改変Tリンパ球療法の一種です。TCR遺伝子治療とは、遺伝子改変Tリンパ球ががん細胞を特異的に認識する受容体の構造が異なります。CAR(キメラ抗原受容体)は、抗原を特異的に認識する抗体由来の部分と、TCR由来の細胞内ドメインを結合させて人工的に作製された、がん抗原を特異的に認識できる受容体です。本治療においては、CAR遺伝子をTリンパ球に遺伝子導入する際に、当社のレトロネクチン®が使用されます。レトロネクチン®はヒトフィブロネクチンの組換えタンパク質であり、ウイルスベクターによるヒト細胞への遺伝子導入効率を高めることが可能です。

⇒レトロネクチン®についてはリンクをご参照下さい。
http://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.php?unitid=U100002954

 CAR遺伝子治療では、CARの構造が治療対象のがん種や治療効果に大きく影響します。既に複数の製品が上市されていますが、臨床応用が進むにつれてCAR-T細胞が生体内で長期生存しないこと等により、疾患が再発するという課題が明らかになってきています。当社は、次世代型CAR遺伝子治療技術を用いたがん治療薬の共同開発をプリンセス・マ ーガレット・がんセンター(カナダ)と進めています。この共同開発により、既存のCARを改良し、Tリンパ球の長期生存に重要なJAK/STATシグナル伝達系を活性化させる機能を導入した 「JAK/STAT CAR」 を開発しました(下図)。JAK/STAT CAR-T細胞は、前臨床試験において抗腫瘍応答を示すTリンパ球の増殖、分化を促進し、持続することにより、優れた抗腫瘍効果を示すことが報告されており(Nat Med. 2018 24(3):352-359)、第5世代CARとされています(Br J Cancer. 2019 120(1):26-37)。当社は、カナダUniversity Health NetworkとJAK/STATシグナル伝達技術に関する独占特許実施許諾を得ています。

作用機序

 がん抗原特異的CAR遺伝子導入Tリンパ球は、TCR遺伝子導入細胞と同様に以下のような作用機序によりがん細胞に対して傷害作用を示し、がんの縮小などの抗腫瘍効果を引き起こします。

  1. Tリンパ球に導入されたCAR遺伝子により、Tリンパ球の細胞表面上にがん抗原特異的CARが発現されます。
  2. 発現されたCAR分子は、標的がん細胞の抗原(CD19、CEAなど)を認識します。その後、遺伝子導入Tリンパ球内に活性化シグナルが伝達され、細胞傷害性分子の放出等により、患者体内のがん細胞に対する細胞傷害活性を発揮します。

関連プロジェクト

 当社では、新規CAR遺伝子治療として、活性化シグナルの伝達を改良したCAR遺伝子治療や、固形がん細胞の抗原を認識するCAR遺伝子治療についても治験に向けた準備を進めています。

プロジェクト

認識抗原

シグナル伝達ドメイン

対象がん種

開発状況

CD19・JAK/STAT・CAR遺伝子治療/TBI-2001

CD19

CD28-ΔIL2RB-CD3ζ (YXXQ)

血液がん

治験準備中

新規JAK/STAT・CAR遺伝子治療

非公開

CD28-ΔIL2RB-CD3ζ (YXXQ)

固形がん

研究開発中

関連情報

CD19・JAK/STAT・CAR遺伝子治療/TBI-2001

文献

  • Kagoya Y, Tanaka S, Guo T et al. A novel chimeric antigen receptor containing a JAK-STAT signaling domain mediates superior antitumor effects. Nat Med. 2018 March 24(3): 352-359

学会発表

学会

演題

Summit for Cancer Immunotherapy 2023

2023年10月1日~4日

カナダ

Comparability and Compatibility Studies of TBI-2001: a Novel CAR T Cell Product with a JAK/STAT Signalling Domain.

第28回日本遺伝子細胞治療学会学術集会

2022年7月14日~16日

福岡

次世代CAR-T(CD19-JAK/STAT CAR-T, TBI-2001)製造技術移管後の同等性評価