タカラバイオ株式会社は、キメラ抗原受容体~{注1}(CAR)遺伝子導入T細胞(以下、CAR-T細胞)を2日間で製造する方法を確立し、このCAR-T細胞が従来の製造法で作製したCAR-T細胞よりもがん細胞に対して高い細胞傷害活性~{注2}を発揮することを確認しました。

 

 CARは、がん細胞等に発現する抗原を特異的に認識してT細胞受容体(TCR)のシグナルを伝達~{注3}できるように人工的に作製された受容体で、CAR-T細胞は、抗原を特異的に認識して、細胞傷害活性を発揮することができます。近年、このCAR-T細胞を用いた細胞治療は、効果的ながん免疫療法~{注4}の一つとして高い注目を集めており、既に複数のCAR-T細胞治療薬が承認されています。

 通常CAR-T細胞は、患者の体外で1-2週間程度培養して製造されますが、培養期間中にCAR-T細胞が分化、疲弊するため、抗腫瘍効果が低減すると言われています。そこで、近年では、CAR-T細胞の製造において、体外での培養を短期間とすることで、CAR-T細胞の分化や疲弊を抑え、患者体内でより強い抗腫瘍効果が得られることが報告されています。

 

 今回、当社ではCAR-T細胞を2日間という短期間で製造する方法を確立しました。この短期間製造法と従来の製造法(9日間)で製造したCAR-T細胞の性能を比較したところ、短期間で製造したCAR-T細胞は、疲弊度が低く、がん細胞に対する細胞傷害活性やT細胞自身の増殖能が高いことを確認しました。

また、当社ではレトロネクチン®~{注5}を用いてT細胞を刺激することにより、未分化な細胞を多く含むCAR-T細胞が製造できることを報告していますが、短期間製造法においても、レトロネクチン®刺激により、他の刺激方法よりも高い細胞傷害活性を示すCAR-T細胞が得られることを確認しました。

 T細胞へのCAR遺伝子の導入には当社独自のレンチウイルスベクターシステムを用いており、当社技術を組み合わせて確立した短期間製造法にて作製された高品質のCAR-T細胞は、体内での機能および生存性が向上し、強力な抗腫瘍効果を示すことが期待されます。

 

 当社は、GMP/GCTPに対応した遺伝子・細胞プロセッシングセンター~{注6}にてウイルスベクターを用いたCAR-T細胞製剤の製造サービス※を行っています。従来の製造法より短期間で高品質のCAR-T細胞を作製する製造法は、製造コストの削減だけでなく、より効果の高いCAR-T細胞製剤の提供に貢献できる技術であると考えられます。

 

 本成果は、第29回日本遺伝子細胞治療学会学術集会(2023年9月11-13日、大阪国際会議場 演題番号O8-1)および第82回日本癌学会学術総会(2023年9月21-23日、パシフィコ横浜 演題番号P-3347)にて発表します。

 当社は、レンチウイルスベクターをはじめ、細胞・遺伝子治療用ウイルスベクターのGMP製造受託および細胞製剤製造受託を行っています。今後さらに開発を進めることで、再生・細胞医療・遺伝子治療の社会実装化を支援していきます。

 

 

※ 関連するサービス・製品

・安全性を高めた高力価のレンチウイルスベクター調製キット

https://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.php?catcd=B1000467&subcatcd=B1000678&unitid=U100009514

・レトロネクチン® GMPグレード

https://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.php?catcd=B1000467&subcatcd=B1000398&unitid=U100007641

・遺伝子治療用ウイルスベクターのGMP製造受託

https://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.php?catcd=B1000467&subcatcd=B1000678&unitid=U100009514

・細胞製剤製造

https://catalog.takara-bio.co.jp/jutaku/basic_info.php?unitid=U100009355

 

 

【語句説明】

(注1)キメラ抗原受容体(CAR)

がん抗原を特異的に認識する抗体由来の部分と、T細胞受容体の細胞内ドメインを結合させて人工的に作製された、がん抗原を特異的に認識できる受容体です。

 

(注2)細胞傷害活性

細胞を殺傷したり、細胞に対して機能障害および増殖阻害を与える能力です。

 

(注3)TCRのシグナル伝達

 がん細胞を傷害したり、T細胞自身の生存、増殖および分化を調節するような様々な生理活性を引き起こすシグナル(情報)を伝えることです。

 

(注4)がん免疫療法

免疫力(異物を排除しようとする力)を増強することで、がん細胞の増殖を抑える治療法です。

 

(注5)レトロネクチン®

ヒトフィブロネクチンの細胞接着ドメイン、ヘパリン結合ドメイン、CS-1部位の3種類の機能性ドメインを含む組み換えタンパク質です。リンパ球の増殖を高めたり、ウイルスベクターの遺伝子導入効率を促進する働きがあります。

 

(注6)遺伝子・細胞プロセッシングセンター

GMP/GCTPに対応した施設で、再生医療等製品に特化し、各種セルバンク、DNA/RNAワクチン、遺伝子治療用ウイルスベクターおよび細胞製剤をGMP/GCTPに準拠して製造しています。

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970

当資料取り扱い上の注意点
資料中の当社による現在の計画、見通し、戦略、確信などのうち、歴史的事実でないものは、将来の業績に関する見通しであり、これらは現時点において入手可能な情報から得られた当社経営陣の判断に基づくものですが、重大なリスクや不確実性を含んでいる情報から得られた多くの仮定および考えに基づきなされたものであります。実際の業績は、さまざまな要素によりこれら予測とは大きく異なる結果となり得ることをご承知おきください。実際の業績に影響を与える要素には、経済情勢、特に消費動向、為替レートの変動、法律・行政制度の変化、競合会社の価格・製品戦略による圧力、当社の既存製品および新製品の販売力の低下、生産中断、当社の知的所有権に対する侵害、急速な技術革新、重大な訴訟における不利な判決などがありますが、業績に影響を与える要素はこれらに限定されるものではありません。