タカラバイオ株式会社は、脳指向性に優れた新しい遺伝子治療用AAV(アデノ随伴ウイルス)ベクターCereAAV~{TM}を開発しました。今後、実用化に向けて応用開発を進めていきます。

 

 遺伝子治療では、ベクターと呼ばれる治療用遺伝子を細胞に導入するためのウイルスが重要な役割を果たしています。なかでもAAVベクターは、遺伝子導入効率が高く、長期間効果が持続することから、遺伝子治療用ベクターとして汎用され、上市された遺伝子治療薬にも使用されています。

 一般に、AAVベクターを使用した脳を標的とした遺伝子治療では、静脈注射により全身投与した場合に、脳以外の臓器(肝臓等)にも蓄積する傾向があり、副作用の原因となる可能性が指摘されています。このため、脳疾患を対象とした遺伝子治療には、脳指向性の高いAAVベクターが求められています。

 

 当社は、AAVの一種であるAAV2をベースに遺伝子工学的改変と独自スクリーニング技術により、脳指向性が非常に高い新規遺伝子治療用AAVベクターCereAAV~{TM}を開発することに成功しました。静脈注射により投与した動物試験において、CereAAV~{TM} は血液脳関門~{※}を透過し、AAV9~{※}と比較して脳への遺伝子導入効率がマウスでは50倍以上、また、霊長類モデル動物(マーモセット)では20倍以上高く、脳への指向性が高いことが分かりました。

 当社は、さらに応用開発を進め、脳疾患遺伝子治療用ベクターとして、製薬企業等への技術ライセンスも含めて新規脳疾患遺伝子治療薬として実用化を推進していきます。

 

 また、当社では、遺伝子改変T細胞療法として、JAK/STATシグナル伝達系を活性化させる技術を用いた次世代型CAR遺伝子治療プロジェクトを進めています。同プロジェクトでは、CD19・JAK/STAT・CAR(開発コード:TBI-2001)が前臨床試験を終え、2022年度の治験開始を目指すほか、固形がんを対象とした新規JAK/STAT・CAR治療法の研究開発に重点を置く方針です。このため、CEA・GITR・CAR(TBI-2002)の開発を中止しました。大塚製薬(株)と共同開発を進めているNY-ESO-1・siTCR~{®}(TBI-1301)については、引き続き、両社共同で製造販売承認申請に向けた準備を進めています。

 このように当社は、従来より進めているex vivo(体外)遺伝子治療に加え、今回開発したCereAAV~{TM}を用いたin vivo(体内)遺伝子治療においても、新モダリティを継続的に創出し、革新的なバイオ技術の開発を通じて人々の健康に貢献してまいります。

 

 

※ 脳血管と脳細胞の間には、物質の輸送・交換を制限する仕組み(血液脳関門)があり、脳に医薬品を投与する際は、外科的手術を経て直接投与することが多く、治療負担が大きいとされています。血液脳関門を透過できるウイルスベクターは限られ、AAVの一種であるAAV9が血液脳関門を透過して脳に移行すると言われ、脊髄性筋萎縮症の治療薬としても利用されています。

 

 

【参考資料】マーモセットの脳(視床)における遺伝子導入効率の比較

 

緑色がAAVベクター投与による蛍光タンパク質発現、赤色が神経細胞の核マーカーを示している。左図:CereAAV~{TM}、右図:AAV9を示す。

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970