タカラバイオ株式会社は、平成25年4月より、名古屋大学と共同で、切除不能局所進行膵癌患者を対象とした、腫瘍溶解性ウイルスHF10と抗がん剤との併用治療の安全性および腫瘍縮小効果を評価するための臨床研究を実施しております。本年5月12日より開催される、第91回日本消化器内視鏡学会総会において、本臨床研究の結果を発表しますので、お知らせいたします。
 

【発表概要】

 

学会名 第91回 日本消化器内視鏡学会総会
場所 グランドプリンスホテル新高輪・国際館パミール
発表日時 平成28年5月12日 16:30~17:05
プログラム 膵臓腫瘍(診断・治療)
演題 切除不能局所進行膵癌に対する単純ヘルペスウイルスⅠ型自然変異株HF10を用いたEUSガイド下腫瘍内投与(第1相試験)
発表要旨 【安全性について】
HF10の超音波内視鏡(EUS)下での腫瘍内投与における安全性が確認された。
□HF10に起因する重篤なまたはグレード3以上の副作用は認められなかった。
【有効性について】
□腫瘍縮小効果は、評価可能な9例のうち部分奏効(PR)が3例、安定(SD)が4例と病勢コントロール率は77.7%であった。
□部分奏効(PR)と判定された3例のうち2例は、腫瘍が縮小したことにより、外科的に腫瘍の切除が可能となり、外科的完全奏効(CR)と判定された。

 

当社は、腫瘍溶解性ウイルスHF10について、現在、米国においてメラノーマを対象とした第II相臨床試験を、日本においてメラノーマなどを対象とした第I相臨床試験を行っています。平成30年度の商業化を目標に、引き続き臨床開発を推進してまいります。

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970

<参考資料>

 

名古屋大学との臨床研究の概要

 

試験名 切除不能進行膵がん患者に対する単純ヘルペスウイルスⅠ型(HSV-1)自然変異株HF10を用いた腫瘍内投与Phase I試験
対象患者 画像診断にて手術適応がなく内科的治療が選択される切除不能進行膵がん患者のうち、超音波内視鏡(EUS)下での腫瘍内投与可能な病変を有する患者
治療法 腫瘍局所へのHF10投与及び抗がん剤投与の併用療法
主要評価項目
副次的評価項目
安全性
腫瘍宿主効果、免疫応答及びウイルス動態
症例数 9例

 

【語句説明】

 

腫瘍溶解性ウイルスHF10

HF10は単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の弱毒化株で、がん局所に注入することによって顕著な抗腫瘍作用を示します。このようなウイルスは腫瘍溶解性ウイルス(oncolytic virus)と呼ばれています。当社は米国でメラノーマを対象とした第II相臨床試験を、日本でメラノーマや扁平上皮がんなどを対象とした第I相臨床試験を行っています。
 

単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)

単純ヘルペスウイルス1型は、唇にできる口唇ヘルペス(口内炎)や、眼の角膜にできるびらん(単純ヘルペス角膜炎)などの原因となります。感染しても、多くの場合は症状をあらわすことなく体内に潜んでいますが、ストレス・過労・病気などの要因で体力が低下すると症状をあらわします。アシクロビルをはじめとした抗ウイルス剤が有効です。
 

腫瘍溶解性ウイルス

腫瘍溶解性ウイルスとは、正常な細胞内ではほとんど増殖せず、がん細胞内において特異的に増殖するウイルス(制限増殖型ウイルス)です。ウイルスの増殖によって直接的にがん細胞を破壊し、がん細胞が死滅します。また、その際に放出されたウイルスが周囲のがん細胞に感染し、さらに、破壊されたがん細胞の断片ががんに対する宿主の免疫を活性化することで、投与部位以外のがんも縮小することが期待されます。単純ヘルペスウイルス1型のほか、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、レオウイルス等から作られた腫瘍溶解性ウイルスの開発が行われています。
 

メラノーマ

悪性度が非常に高い、皮膚に発生するがんの一種で、悪性黒色腫とも呼ばれています。皮膚の色と関係するメラニン色素を産生する皮膚の細胞をメラノサイトと呼び、悪性黒色腫はこのメラノサイトあるいは母斑細胞(ほくろの細胞)が悪性化した腫瘍と考えられています。
 

副作用のグレード

副作用の重症度を示すものです。米国がん国立研究所が公表した基準では、グレード1~5の5段階に分類されています。グレード1~5の順に、軽度、中等度、高度、生命を脅かす重症度、死亡となります。グレード2以下は、症状に対して治療が必要になる可能性があるが、臨床試験は継続できる程度とされています。
 

腫瘍縮小効果

抗がん剤の治療により、がんの大きさがどの程度小さくなったかを表す基準です。固形がんの治療効果判定のためのガイドライン(RECISTガイドライン)により以下のように定義されています。
・完全奏効 : すべてのがん(標的病変)が消失。
・部分奏効 : すべてのがん(標的病変)の大きさの合計が30%以上縮小。
・安定    : 部分奏功と進行の間の状態。
・進行   : すべてのがん(標的病変)の大きさの合計が20%以上増加、かつ5mm以上増加。
 

病勢コントロール率

「完全奏効」「部分奏効」「安定」を合わせた患者の割合