タカラバイオ株式会社が商業化を目指して開発を進めているT細胞受容体(TCR)遺伝子治療プロジェクトについて、独立行政法人科学技術振興機構(JST)の平成25年度 第2回「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP) 実用化挑戦ステージ 実用化挑戦タイプ(創薬開発)」に新規課題として採択され、この度、開発委託契約を締結しました。  

 

TCR遺伝子治療は、がん患者から採取したリンパ球に遺伝子を導入して患者に戻すことにより、遺伝子改変されたリンパ球が、患者の体内においてがん細胞を特異的に認識して攻撃し、消滅させることを目指す新しいタイプのがん治療法です。今回採択となったのは、MAGE-A4および、NY-ESO-1 TCR遺伝子治療プロジェクトで、いずれも当社は三重大学と共同で開発を進めています。

 

本採択課題の概要は以下の通りです。

 

委託元 独立行政法人科学技術振興機構
実施内容 ① MAGE-A4 TCR遺伝子治療 治験実施
② NY-ESO-1 TCR遺伝子治療 治験準備/実施
③ 製造販売承認に向けた医療システムの構築
研究開発期間 (原則)最長5年
研究開発費総額 (原則)10億円まで(間接経費込)

 

昨今の国を挙げた再生医療実用化の支援においては、文部科学省・経済産業省・厚生労働省が協働して基礎研究から臨床研究、産業化までをシームレスに推進する方針が示されています。その中で、JSTはA-STEPにおいて研究開発の進捗段階に応じた区分で公募を実施しており、実用化に向けた最終段階に位置付けられる「実用化挑戦タイプ」における「創薬開発」としては、平成25年度は当社の遺伝子治療プロジェクトの1課題のみが採択となりました。当社は、本委託事業へ採択されたことにより、今後TCR遺伝子治療の実用化を目指した開発を着実に推進していけると考えております。

 

なお、本契約締結による当社連結および単体の平成26年3月期業績への影響は軽微です。平成27年3月期以降の通期業績へは営業外収益の増加要因となりますが、その影響につきましては、他の要因も含めて精査を行い、中期経営計画として5月8日に公表予定です。

 

(ご参考)科学技術振興機構ホームページ
http://www.jst.go.jp/a-step/kadai/h25-2honkaku_2.html 

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970

<参考資料>

 

【語句説明】

 

TCR(T細胞受容体)遺伝子治療

TCR遺伝子治療は、がん患者から採取したリンパ球に、がん細胞を特異的に認識するTCR遺伝子を体外で導入し、培養によって増殖させた後に輸注により患者に戻す治療で、がん免疫遺伝子治療の一種です。TCR遺伝子が導入されたリンパ球が、患者の体内において、がん細胞を特異的に認識して攻撃し、消滅させることによりがんを治療します。当社は、MAGE-A4、NY-ESO-1、WT1等のがん抗原特異的TCR遺伝子治療の臨床開発を推進しています。

 

TCR(T細胞受容体)

リンパ球(T細胞)に発現する糖タンパク質で、リンパ球が抗原を認識する際に作用します。腫瘍抗原を含む抗原は、TCRに認識されることにより、リンパ球が活性化されます。

 

レトロネクチン法

レトロネクチン®は、当社が開発したヒトフィブロネクチンと呼ばれる分子を改良した組換えタンパク質です。レトロネクチン®を用いたレトロウイルスベクターによる遺伝子導入法は、レトロネクチン法として知られており、レトロウイルスベクターによる遺伝子治療の臨床研究のスタンダードとなっています。

 

レトロウイルスベクター

レトロウイルスとは、一本鎖RNAをゲノムとするウイルスの一種で、このウイルスが感染した細胞では、RNAゲノムから合成されたDNAが染色体に組み込まれます。その仕組みを利用して、レトロウイルスを改変したものが、遺伝子治療の際の遺伝子導入用ベクターとして広く用いられています。このベクターを使用すれば種々の細胞に遺伝子導入を行うことができ、安定した形質発現が期待できます。

 

MAGE-A4

MAGE-A4抗原は、がん抗原の一つで、食道がんや頭頸部がん、卵巣癌、悪性黒色腫等での発現が確認されています。

 

NY-ESO-1

NY-ESO-1抗原は、がん抗原の一つで、滑膜細胞肉腫、悪性黒色腫、卵巣がん、食道がん等での発現が確認されています。