タカラバイオ株式会社は、TCR遺伝子治療技術を用いたがん治療薬の商業化を目指し、三重大学医学部の珠玖洋教授らのグループと共同で、臨床研究および治験開始に向けた準備を進めてきました。当社との共同研究者である珠玖教授は、固形癌を対象とした第Ⅰ相臨床試験(医師主導治験)に関する治験計画届を、本年2月5日付けで医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出しました。PMDAによる30日間の調査を経た後に治験が開始される予定です。

 

TCR遺伝子治療法は、がん患者から採取したリンパ球に遺伝子を導入して患者に戻すことにより、遺伝子改変されたリンパ球が、患者の体内において、がん細胞を特異的に認識して攻撃し、消滅させることを目指す新しいタイプのがん治療法です。遺伝子導入時に、当社が開発したレトロネクチン法および、三重大学と共同開発したTCR遺伝子導入用レトロウイルスベクターを使用します。本治験は、先端医療であるがん免疫遺伝子治療の国内初の治験となり、当社は、治験薬TBI-1201(MAGE-A4 抗原特異的TCR遺伝子導入Tリンパ球)を調製し、提供する計画です。

 

日本政府は成長戦略の1つとして、再生医療等の早期実用化を目指しており、昨年11月には国会で再生医療等安全性確保法および改正薬事法が成立しました。改正薬事法には、再生医療等製品に対する早期承認制度が新たに盛り込まれました。当社は、TCR遺伝子治療の商業化について平成33年度を目標としておりますが、今後の法整備の動向を注視して早期承認制度の利用を積極的に検討し、TCR遺伝子治療の開発をより効率的に進めていく予定です。

 

今回の治験計画届提出による当社連結及び単体の平成26年3月期業績への直接的な影響は軽微です。

 

【治験概要】(予定)

 

治験課題名 化学療法剤投与による前処置後のMAGE-A4抗原特異的TCR遺伝子導入Tリンパ球輸注による固形癌を対象とした多施設共同臨床第I相医師主導治験
対象患者 再発難治性の固形癌患者のうち,HLA-A*24:02陽性かつ腫瘍細胞にMAGE-A4を発現している患者
主要評価項目 TCR遺伝子導入Tリンパ球の安全性、体内動態
副次評価項目 臨床効果(腫瘍縮小効果)
予定症例数 12例
予定試験期間 2014年3月~2016年3月(2年間)

この件に関するお問い合わせ先 : タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970

<参考資料>

 

【語句説明】

 

医師主導治験

医師自らが治験計画届を作成提出して治験の準備や管理を行う治験で、平成15年に薬事法改正により可能となりました。遺伝子治療のような先端医療では、専門性の高い医師との密接な連携による開発が必須であり、治験・開発に積極的な医師の主体的参加であればより円滑に開発が進むため、医師主導での治験実施を目指しています。

 

レトロネクチン法

レトロネクチン®は、当社が開発したヒトフィブロネクチンと呼ばれる分子を改良した組換えタンパク質です。レトロネクチン®を用いたレトロウイルスベクターによる遺伝子導入法は、レトロネクチン法として知られており、レトロウイルスベクターによる遺伝子治療の臨床研究のスタンダードとなっています。

 

レトロウイルスベクター

レトロウイルスとは、一本鎖RNAをゲノムとするウイルスの一種で、このウイルスが感染した細胞では、RNAゲノムから合成されたDNAが染色体に組み込まれます。その仕組みを利用して、レトロウイルスを改変したものが、遺伝子治療の際の遺伝子導入用ベクターとして広く用いられています。このベクターを使用すれば種々の細胞に遺伝子導入を行うことができ、安定した形質発現が期待できます。

 

MAGE-A4・TCR(T細胞受容体)遺伝子治療

TCR遺伝子治療は、がん患者から採取したリンパ球に、がん細胞を特異的に認識するTCR遺伝子を体外で導入し、培養によって増殖させた後に輸注により患者に戻す治療で、がん免疫遺伝子治療の一種です。TCR遺伝子が導入されたリンパ球が、患者の体内において、がん細胞を特異的に認識して攻撃し、消滅させることによりがんを治療します。当社は、MAGE-A4、NY-ESO-1、WT1等のがん抗原特異的TCR遺伝子治療の臨床開発を推進しています。MAGE-A4抗原は、がん抗原の一つで、食道がんや頭頸部がん、卵巣癌、悪性黒色腫等での発現が確認されています。

 

TCR(T細胞受容体)法

リンパ球(T細胞)に発現する糖タンパク質で、リンパ球が抗原を認識する際に作用します。腫瘍抗原を含む抗原は、TCRに認識されることにより、リンパ球が活性化されます。

 

再生医療

再生医療とは、ヒトの細胞・組織を取得・加工して移植することで、損傷を受けた生体機能を回復させる医療のことです。政府は再生医療の早期普及及び産業化を目指しており、再生医療を推進するための基本法ともいえる再生医療推進法(再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律)が、平成25年4月26日に、また、薬事法等の一部を改正する法律(改正薬事法)および再生医療等の安全性確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)が、平成25年11月20日に成立しました。

 

再生医療等製品

改正薬事法により医薬品や医療機器とは別に新たに定義されたカテゴリーで、従来の再生医療で想定される移植用に加工・調製されたヒトの細胞・組織等に加えて、遺伝子治療製品や、がん免疫療法に用いられる加工された細胞なども含まれます。通常の低分子化合物を用いる医薬品とは異なり、個体差のあるヒト細胞を用いることにより品質が不均一となる再生医療等製品については、有効性が推定され、安全性が確認されていれば、条件・期限付きで早期に承認が得られる仕組みが導入されました。改正薬事法において、がん治療を目的とした遺伝子導入リンパ球は「再生医療等製品」に位置づけられ、早期承認制度の対象となる可能性があります。

 

前処置

TCR遺伝子治療における前処置は、抗がん剤や放射線療法によって患者体内のリンパ球を一時的に減少させる処置です。患者の体内のリンパ球を減少させることにより、輸注した遺伝子導入リンパ球の働きを抑制する免疫抑制機構を解除します。さらに、リンパ球を減少させた環境でリンパ球輸注すると、リンパ球が顕著に活性化され増殖することが知られており、治療効果が期待されます。