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タカラバイオ株式会社は、中期経営計画（本年4月から平成30年3月末まで）を策定しました。
本中期経営計画では、最終年度にあたる平成29年度のタカラバイオグループ連結売上高300億円以上の達成及び、臨床開発プロジェクトの進展による研究開発費の増加を吸収して営業利益25億円以上へ利益拡大を目指します。初年度である本年度から最終年度にあたる平成29年度まで、売上高、営業利益、経常利益及び親会社株主に帰属する当期純利益において各年度とも過去最高業績の更新を目指します。
当社は、「遺伝子治療などの革新的なバイオ技術の開発を通じて、人々の健康に貢献する」ことを企業理念として、当社の基幹技術であるバイオテクノロジーを活用し、安定収益基盤であり技術基盤である「バイオ産業支援事業」、第2の収益事業化を目指す「医食品バイオ事業」、成長基盤である「遺伝子医療事業」の3つの事業を推進しています。
「バイオ産業支援事業」では、昨年に稼働した遺伝子・細胞プロセッシングセンターを中核として、バイオ医薬品や再生医療等製品などの製造開発支援サービスを展開するCDMO（Contract Development and Manufacturing Organization）事業の拡大を図ります。「医食品バイオ事業」では、瑞穂農林株式会社へ集約したキノコ生産の効率化やより高付加価値なホンシメジの販売などに注力して収益を改善し、本年度の営業黒字化を目指します。「遺伝子医療事業」では、本年度に開始予定のCD19・CAR遺伝子治療の日本における治験をはじめ、各臨床開発プロジェクトを着実に推進して参ります。
1. 業績目標
連結業績目標 （単位：百万円）
| 本年度 | 平成28年度 | 平成29年度 | |
| 売上高 | 28,300 | 29,800 | 31,300 |
| 営業利益 | 2,350 | 2,450 | 2,550 |
| 経常利益 | 2,800 | 2,870 | 2,970 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 1,500 | 1,700 | 1,800 |
| 研究開発費 | 4,013 | 4,514 | 5,015 |
事業セグメント （単位：百万円）
| 本年度 | 平成28年度 | 平成29年度 | |
| 研究用試薬 理化学機器 受託 その他 |
19,519 2,405 3,654 398 |
20,532 2,405 4,043 398 |
21,489 2,405 4,486 398 |
| バイオ産業支援 計 | 25,978 | 27,380 | 28,780 |
| 遺伝子医療 | - | - | - |
| 健康食品 キノコ |
841 1,480 |
920 1,500 |
1,000 1,520 |
| 医食品バイオ 計 | 2,321 | 2,420 | 2,520 |
| 売上高 合計 | 28,300 | 29,800 | 31,300 |
事業セグメント別営業利益 （単位：百万円）
| 本年度 | 平成28年度 | 平成29年度 | |
| バイオ産業支援 | 5,713 | 6,119 | 6,451 |
| 遺伝子医療 | ▲1,579 | ▲1,830 | ▲2,080 |
| 医食品バイオ | 61 | 92 | 130 |
| 共通 | ▲1,845 | ▲1,931 | ▲1,951 |
| 営業利益 合計 | 2,350 | 2,450 | 2,550 |
事業セグメント別研究開発費 （単位：百万円）
| 本年度 | 平成28年度 | 平成29年度 | |
| バイオ産業支援 | 2,190 | 2,439 | 2,690 |
| 遺伝子医療 | 1,559 | 1,810 | 2,060 |
| 医食品バイオ | 143 | 143 | 143 |
| 共通 | 120 | 120 | 120 |
| 研究開発費 合計 | 4,013 | 4,514 | 5,015 |
2. 事業別施策
当社は、「バイオ産業支援事業」、「遺伝子医療事業」、「医食品バイオ事業」の3つの事業を展開しておりますが、以下に掲げる事業戦略を実行し、収益拡大を目指します。
１）バイオ産業支援事業
大学や企業などの世界のバイオ研究者向けに研究用試薬・理化学機器の販売や研究・製造受託サービスを行う当事業は、当社の収益基盤であるコアビジネスとして位置づけています。当事業では、昨年に旧Cellartis社を買収して設立したTakara Bio Europe AB社を含め、日米欧中の4研究開発拠点体制を構築し、iPS細胞などの幹細胞を用いた基礎研究や再生医療・細胞医療などの研究分野に向けた新製品・サービスの開発を加速していきます。また、遺伝子治療や細胞医療の臨床開発で培った技術・ノウハウを活用し、昨年に稼働した遺伝子・細胞プロセッシングセンターを中核拠点として、GCTP（Good Gene, Cellular and Tissue-based Products Manufacturing Practice）に準拠した再生医療等製品などの製造受託や、研究開発のパートナーとして受託サービスなどを行うCDMO事業の拡大を目指します。さらに、現在、滋賀県大津市、草津市及び三重県四日市市に分散している研究・受託施設を、平成27年8月より随時滋賀県草津市に集約・統合する予定で、研究開発の効率化及び受託サービスのメニューの充実および品質向上を目指します。
当事業では、基礎研究支援から創薬・産業支援へとその領域を広げながら、次のような事業展開を積極的に進めます。
- 細胞加工受託業の開始をはじめ、遺伝子・細胞プロセッシングセンターを中心としたCDMO事業の拡大
- iPS細胞などを利用した再生医療・細胞医療支援分野における新製品・サービス開発および売上拡大
- 日本、米国、欧州、中国の4研究開発拠点の特性を生かした開発テーマの分担による製品開発力の強化
- 「TaKaRa」「Clontech」「Cellartis」の3ブランド戦略の推進、キーアカウント営業への注力、受託開発部・海外営業部・カスタマーリレーションセンターの新設などによる、営業・販売体制の強化
- 日本、中国、インドの各製造拠点の連携強化による効率的な製造体制・ロジスティックス体制の構築
２）遺伝子医療事業
臨床試験（治験）を実施中の腫瘍溶解性ウイルスHF10、siTCR遺伝子治療、MazF遺伝子治療の早期商業化を目指し、再生医療等製品の条件及び期限付承認制度などの早期承認制度の利用検討を積極的に進めつつ、臨床開発を積極的に推進します。
また、CD19・CAR遺伝子治療の日本における臨床試験（治験）を本年度に開始する予定です。当社は、CAR遺伝子治療をsiTCR遺伝子治療やMazF遺伝子治療と並ぶEngineered T cell Therapyの開発候補の一つとして位置づけ、臨床開発を進めます。
- 悪性黒色腫を対象とした腫瘍溶解性ウイルスHF10の臨床開発の推進
（目標：平成30年度の商業化） - 固形がんを対象としたMAGE-A4およびNY-ESO-1抗原特異的siTCR遺伝子治療の臨床開発の推進
（目標： 平成33年度の商業化） - HIV感染症を対象としたMazF遺伝子治療の米国での臨床開発の推進
（目標：平成34年度の商業化） - B細胞性造血器悪性腫瘍を対象としたCD19・CAR遺伝子治療の臨床開発の推進
（目標：平成27年度の治験開始）
３）医食品バイオ事業
機能性食品素材の開発を中心とした健康食品事業やキノコに関する事業を展開しています。キノコ事業では、瑞穂農林株式会社にキノコの生産を集約し、効率化を図り、より高付加価値なホンシメジの販売に注力し、収益性の高い販路の開拓などにより、収益改善を進めます。健康食品事業では、宝ヘルスケア株式会社との連携強化による健康食品の売上拡大を図り、医食品バイオ事業全体として平成27年度の営業黒字化を目指します。
- ガゴメ昆布「フコイダン」、ボタンボウフウ「イソサミジン」、明日葉「カルコン」、寒天「アガフィトース™」、ヤムイモ「ヤムスゲニン®」、きのこ「テルペン」などの機能性食品素材のエビデンスデータ取得蓄積を目指した自社研究開発と医学系研究機関との共同研究の推進
- 取得したエビデンスデータのインターネットサイトでの公開や情報冊子配布による啓発活動
- 品質管理・品質保証体制の強化および製造コスト削減
- 瑞穂農林株式会社でのホンシメジ、ハタケシメジ生産の効率化
- 収益性の高い販路開拓によるキノコの販売拡大
この件に関するお問い合わせ先 ： タカラバイオ株式会社 広報・IR部
Tel 077-565-6970
＜参考資料＞
【語句説明】
GCTP
Good Gene, Cellular Tissue-based Products Manufacturing Practiceの略で、再生医療等製品を製造する際に遵守すべき「再生医療等製品の製造管理及び品質管理規則」を指します。
iPS細胞
体細胞に、数種類の遺伝子を導入することなどによって分化多能性が誘導された細胞のことです。2006年に京都大学山中伸弥教授らのグループにより、この現象が発見され人工多能性幹細胞（induced Pluripotent Stem Cells：iPS細胞）と名付けられました。iPS細胞は、ES（Embryonic Stem）細胞とほぼ同等の分化多能性を示すことから、薬剤開発、種々の疾患の病態解明や再生医療への応用が期待されています。
再生医療等製品
平成26年11月25日に施行された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」により医薬品や医療機器とは別に新たに定義されたカテゴリーで、従来の再生医療で想定される移植用に加工・調製されたヒトの細胞・組織等に加えて、遺伝子治療製品、がん免疫療法に用いられる加工された細胞、腫瘍溶解性ウイルスなども含まれます。医薬品とは異なり、再生医療等製品については、有効性が推定され、安全性が確認されていれば、条件及び期限付承認制度で早期に承認が得られる仕組みが導入されました。
HF10
当社は、平成22年11月にHF10事業を株式会社エムズサイエンスより取得しました。HF10は単純ヘルペスウイルス1型（HSV-1）の弱毒化株で、がん局所に注入することによって顕著な抗腫瘍作用を示します。このようなウイルスは腫瘍溶解性ウイルス（oncolytic virus）と呼ばれています。
siTCR遺伝子治療
がん患者から採取したT細胞に、がん細胞を特異的に認識するTCR遺伝子を体外で導入し、培養によって増殖させた後に輸注により患者に戻す治療をTCR遺伝子治療といい、Engineered T cell Therapyの一種です。TCR遺伝子が導入されたT細胞が、患者の体内において、癌細胞を特異的に認識して攻撃し、消滅させることによりがんを治療します。siTCRベクター技術を用いたTCR遺伝子治療をsiTCR遺伝子治療と呼んでいます。ターゲットとするがん抗原に合わせたTCR遺伝子を選択することにより、siTCR遺伝子治療は様々ながん種への適用が可能となります。
TCR（T細胞受容体）
リンパ球（T細胞）に発現する糖タンパク質で、リンパ球が抗原を認識する際に作用します。腫瘍抗原を含む抗原をTCRが認識することにより、リンパ球が活性化されます。
siTCRベクター技術
T細胞が有する内在性TCR遺伝子の発現を抑制するためのsiRNA配列を組み込んだベクターを用いて、目的のTCR遺伝子を効率的に発現することができる技術です。副作用のリスクの低減、有効性の向上につながると考えられます。当社の独自技術です。
MAGE-A4
MAGE-A4抗原は、がん精巣抗原の一つで、食道がん、頭頸部がん、卵巣がん、悪性黒色腫などで発現が確認されています。
NY-ESO-1
NY-ESO-1抗原は、がん精巣抗原の一つで、滑膜肉腫、悪性黒色腫、食道がん、卵巣がん、多発性骨髄腫、頭頸部がんなどで発現が確認されています。
MazF遺伝子治療
MazF遺伝子治療は、大腸菌由来のRNA分解酵素であるMazFを利用したエイズ（HIV感染症）に対する遺伝子治療法です。HIV感染によってMazFの発現が誘導されるよう設計されており、発現したMazFによりHIVの複製を阻止し、患者の免疫機能を維持させる治療で、Engineered T cell Therapyの一種です。当社は、米国のペンシルベニア大学、ドレクセル大学と共同で、MazF遺伝子を用いたエイズ遺伝子治療の第Ⅰ相臨床試験を米国において実施中です。
CD19･CAR遺伝子治療
CARはキメラ抗原受容体のことで、あるがん抗原を特異的に認識する抗体由来の部分と、T細胞受容体由来の細胞傷害性機能部分を結合させて作製された、がん抗原を特異的に認識できる受容体です。がん患者から採取したリンパ球に、CD19陽性のB細胞性造血器悪性腫瘍を認識するCAR遺伝子を体外で患者由来のT細胞に導入し、培養によって増殖させた後に輸注により患者に戻す治療で、Engineered T cell Therapyの一種です。
CD19
B細胞の表面に存在する糖タンパク質で、B細胞の活性化や増殖に関与しています。また、非ホジキンリンパ腫や慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病などの造血器悪性腫瘍の多くはB細胞により起こり、これらのB細胞の表面にもCD19分子が発現しています。
Engineered T cell Therapy
T細胞に遺伝子を導入し、ターゲットとするがん細胞などを選択的に認識して攻撃させ、治療する方法をいいます。
ガゴメ昆布「フコイダン」
昆布、ワカメ、モズクなど、褐藻類の海藻のぬめり成分で、硫酸化されたフコースを構成成分とする多糖の総称です。ガゴメ昆布には乾燥重量の約5％と豊富にフコイダンが含まれています。当社は北海道の函館近海に生育するガゴメ昆布に注目し、1995年にフコイダンの化学構造を世界で初めて明らかにしました。また様々な生理活性の研究も進めています。
ボタンボウフウ「イソサミジン」
ボタンボウフウ（牡丹防風）は日本では本州以西から沖縄までの海岸沿いに生育するセリ科の植物で、学名をPeucedanum japonicumといいます。沖縄では別名、長命草やサクナと呼ばれています。屋久島産ボタンボウフウには、有用成分であるイソサミジンが含まれており、当社では様々な機能性の研究を進めております。
寒天「アガフィトース™」
寒天の主成分であるアガロースを酸加水分解によって生成する2糖～8糖のオリゴ糖です。
明日葉「カルコン」
明日葉に特徴的に含まれるポリフェノール系成分です。明日葉にはキサントアンゲロールと4-ハイドロキシデリシンの2種類のカルコンが豊富に含まれており、これらを総称して明日葉カルコンと呼びます。
ヤムイモ「ヤムスゲニン®」
ヤムイモの一種であるトゲドコロに含まれるジオスゲニン配糖体です。
きのこ「テルペン」
白楡木茸（しろたもぎたけ）属キノコのある種のブナシメジに含まれる苦味成分の一つであり、一般の食用キノコにはほとんど含まれません。テルペンとは、植物に広く存在するイソプレン構造を基本とする物質の総称です。
