遺伝子医療

遺伝子治療事業

当社は遺伝子治療の商業化を目指し、以下の遺伝子治療の臨床開発を推進しています。

遺伝子治療とは?

HSV-TK遺伝子治療プロジェクト

本プロジェクトは、イタリアのミラノ市にあるモルメド社から、アジアでの開発・商業化に関るライセンスを受けた共同開発プロジェクトで、現在、 造血器悪性腫瘍の患者さんを対象に、日本での開発が進められています。すなわち、同種造血幹細胞移植後に再発をきたした白血病やその他の造血器悪性腫瘍の患者さんを対象としたドナーリンパ球輸注(DLI)療法の際に、また、造血器悪性腫瘍患者さんを対象としたハプロタイプ一致(HLA不一致)T細胞除去造血幹細胞移植後の追加DLI療法の際に、遺伝子導入したドナーリンパ球を使用する新しい治療法の確立を目指しています。
導入される遺伝子は、 単純ヘルペスウイルス1型−チミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子及び細胞内領域欠損ヒト低親和性神経成長因子受容体(ΔLNGFR)遺伝子の2種類で、自己複製能を欠失したレトロウイルスベクターを使用して、体外(ex vivo)で活性化したドナーリンパ球に遺伝子導入されます。遺伝子導入されたリンパ球は、細胞表面に発現したΔLNGFRに対する特異抗体を用いて純化され、更に拡大培養して品質が確認された後、患者さんへ輸注されます(図参照)。
HSV-TK遺伝子は、自殺遺伝子としての機能を発揮することが知られており、CMV感染症の医薬品であるガンシクロビル(GCV)の作用により、HSV-TK遺伝子が導入された細胞を選択的に細胞死に至らしめます。DLI療法は、ドナーリンパ球が患者さんの体内で白血病細胞や腫瘍組織を攻撃(GVL又はGVM効果と言いますすることを期待して行われますが、一方で、ドナーリンパ球が患者さんの正常な組織・細胞をも異物として認識して攻撃する副作用(GVHDと言います)を発症することがあります。GVHDは特に重症化すると、これが原因で死に至る場合さえありますので、重篤なGVHDを回避することがDLI療法の最大の課題となっています。本遺伝子治療を用いたDLI療法では、重篤なGVHDが発症した際にGCVを投与することでほぼ完全に症状を沈静化できますので、安心して治療に十分な量のドナーリンパ球を輸注することができます。また、ハプロタイプ一致(HLA不一致)T細胞除去造血幹細胞移植後の追加DLI療法では、感染症防御に重要な免疫系の再構築にも有効に作用することが期待されます。
日本における造血器悪性腫瘍の罹患数は約2万人に達し、その約10%が移植を必要としています。本遺伝子治療により、今後の少子化の問題がある中、ハプロタイプ一致(HLA不一致)の血縁者をドナーとしてほぼ確実に移植の適応を増やすことができ、また移植後の再発白血病やその他の造血器悪性腫瘍に対して悪い予後を従来より有効かつ安全に治療する道が開けます。当社は、本プロジェクトを通じて、新しい遺伝子治療を提供していきたいと考えています。

遺伝子導入されたリンパ球の患者さんへ輸注までの流れ

臨床試験情報

TCR遺伝子治療プロジェクト

本プロジェクトは、がんのテーラーメード医療として注目を集めている新しい養子免疫療法の一つです。すなわち、T細胞受容体(TCR)遺伝子治療とは、がん患者さんのリンパ球に、がん抗原を認識できるTCR遺伝子を導入します。この際に、高い効率で遺伝子導入することが重要となり、当社のレトロネクチンが使用されます。遺伝子導入したリンパ球は大量に培養された後、そのがん患者さんに戻されますが、腫瘍抗原ペプチドを認識するTCRがリンパ球上に発現していますので、これが腫瘍抗原を提示するがん細胞を認識して特異的に攻撃し、最終的にがん細胞を消滅させることが可能となります。
TCR遺伝子治療は、従来から研究がなされている腫瘍抗原ペプチドワクチンと比較すると、腫瘍抗原を提示するがん細胞を特異的に認識するリンパ球を体内で誘導する必要がなく、機能的ながん抗原特異的な細胞傷害活性を有するリンパ球を体外で調製することが可能であり、また調製したリンパ球の投与量の設定が可能なことや患者さんの免疫機能を別の方法で制御可能である等、多くのメリットを有しています。
当社は、このTCR遺伝子治療に関して、養子免疫療法の創始者である米国国立がん研究所の外科部門長のスティーブン・ローゼンバーグ博士が実施する転移性悪性黒色腫の臨床試験に、レトロネクチンを供給しています。ローゼンバーグ博士らのグループは、黒色腫のがん抗原であるMART-1又はgp100を認識するTCR遺伝子を患者さん由来のリンパ球に高い効率で遺伝子導入し、試験に使用しています。
一方、当社は三重大学医学部と共同で、食道がんを対象とした日本初のTCR遺伝子治療の臨床開発を進めており、患者さんから採取した末梢血リンパ球に、治療用TCR遺伝子を、レトロネクチンを用いて高効率に導入することにより、TCR遺伝子導入細胞を高品質で調製する技術も開発しています(図参照)。

T細胞受容体(TCR)導入細胞を高品質で調製

MazF遺伝子治療プロジェクト

当社は、RNA分解酵素MazF遺伝子を用いたエイズ遺伝子治療の研究開発を進めています。エイズウイルス(HIV)が感染したT細胞では、HIV由来のTatタンパク質が初期発現することにより、HIVの複製が開始されますが、Tatタンパク質によってMazFの発現が誘導されるように構築した発現ベクターを遺伝子導入することにより、HIVの複製を阻止し、HIVを消滅させようとするものです。
当社は、2010年3月にペンシルベニア大学と共同研究契約を締結し、米国においてHIV-1感染症を対象としたMazF遺伝子治療の臨床試験を行うための準備を同大学と共同で開始しました。現在、同大学、鹿児島大学、及び医薬基盤研究所霊長類医科学研究センターと共同で、臨床試験実施のための申請資料の作成や動物試験などの非臨床試験を進めています。

MazF遺伝子治療メカニズム

HF10プロジェクト

HF10は単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の弱毒化株で、がん局所に注入することによって顕著な抗腫瘍作用を示します。このようなウイルスは「腫瘍溶解性ウイルス(oncolytic virus)」と呼ばれ、このウイルスによる治療法は「がんウイルス療法」と呼ばれています。腫瘍溶解性ウイルスは、正常細胞内でほとんど増殖できないのに対して、がん細胞内では高い増殖能を示すためにがん細胞を特異的に殺傷します。多くの腫瘍溶解性ウイルスは遺伝子の組換えや外来遺伝子の挿入を行っていますが、HF10は遺伝子工学的改変を一切行っていない自然変異型のウイルスです。
単純ヘルペスウイルスは、大多数の人が成人するまでに感染する身近なウイルスです。名古屋大学の西山幸廣教授が、弱毒性かつ副作用が少ない単純ヘルペスウイルス変異株(HF10)を発見し、当社が商用化の権利を保有しています。現在、当社は、米国で頭頸部がんを対象とした臨床試験を実施しています。また、名古屋大学医学部附属病院では乳がん・頭頸部がん・膵がんを対象とした臨床研究が実施され、HF10の安全性と良好な抗腫瘍効果が報告されています。HF10の投与により宿主免疫が活性化されることも動物実験により示されています。
HF10は、すべての固形がんに対して有効である可能性があります。今までに臨床試験が実施された乳がん、頭頚部がん及び膵がんに加え、満足な治療法が確立されていないメラノーマ、膀胱がん、腹膜播種等が有望な対象疾患と考えられます。

HF10作用メカニズム

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